高知県知事時代

  • 産業振興計画と中山間対策③
  • 番外編

集落活動センターの先に

 集落活動センター事業が本当に上手くいくのかどうか、正直なところ、最初はかなり気を揉んだ。対話と実行行脚の機会などに、このアイディアを説明しても、最初の頃は半信半疑な反応が多かった。「集落に若者もいないし、新しい挑戦はちょっと、、。」としばしば言われたものだ。
 だから、2012年6月に、第一号となる汗見川集落活動センターが立ち上がった時には心底嬉しかった。ようこそ応じてくださいました、と手を合わせたい思いであった。

《オーダーメードで》

 その後、集落活動センター事業は県内に順調に普及し、現在は61ヶ所で展開されるまでになった。最初の10番目くらいまでのセンターは、もともと何らかの集落活性化の取り組みを展開されている方々によるものであった。むしろ、お手本となる取り組みが、集落活動センター事業にも応募してくださったという感じであった。だが、3年くらいしてから、徐々に、集落の全く新たな挑戦としてセンター事業を活用しようというケースが増え始めた。
 集落活動センター事業では、設備整備や運営費への補助を行う。こうした県事業としてはやや大胆だが、同事業では集落のオーダーメードの取り組みを応援することとしている。集落ごとにその置かれた事情は大きく異なる。故に、その実情にあった自発的な取り組みを応援したいとの思いだった。公序良俗に反するのでなければご自由に、と色々な取り組みを促すよう努めたのだ。
 私は、本当に自由で良いと思っていた。川があるならそれを生かし、山があるならそれを生かし、きのこがあるならそれを生かす。ゴルフ場が近くにあるなら、ゴルフ道場を主宰するセンターでも良いと思った。持てるものを生かす。今も地域の自主的な自由な取り組みを応援することが大事だと思っている。
 実際、かなりユニークな取り組みが県内に広がっている。周辺の林業振興にあわせてポット苗の生産を手がける西峰のセンターの他にも、舞茸の生産を手がける氷室のセンターなど、特産品を生かした事業展開を図るセンターは多い。
 交流人口の拡大によって地域を生かそうとするセンターもある。室戸の廃校水族館は全国的に有名になったが、併設されている椎名のセンターにとっては良きパートナーだろう。黒潮町のビジネスモデルは秀逸だ。地元発案で西南大規模公園のサッカー場を人口芝化し、通年でのキャンプ受け入れを可能とした上で、3つの集落活動センターが宿泊やお弁当の提供を手がけている。
 生活を支えることを中心的な活動とするセンターも多い。私も、高齢者の方にお弁当を配ったり、カフェを運営したり、100歳体操などを展開するセンターに度々お伺いした。三原村で、洗濯に苦労する高齢者のために、コインランドリーを運営するのだと聞いた時には、目から鱗の思いであった。
 16年6月から全ての集落活動センターの代表者からなる集落活動センター連絡協議会を立ち上げ、活動報告や研究などを行ってきている。ある時、その後の懇親会に出席して私は心底嬉しい気持ちになった。懇親会が、良い意味で自慢大会になっていたのだ。
 参加者がお互い「うちの取り組み」を語り合っている。「うちではこうした。いや、うちではそこはこうした、云々。」苦労話の吐露もあるようではあったが、全体としては、自分たちの取り組みへの自負が大いに感じられる前向きな会であった。集落の思いを生かし、その工夫を生かす。そうした事業として将来の期待が持てるところだ。

《より骨太に》

 もし4期目に出馬していたなら、公約の柱として中山間の医療福祉と教育の充実を柱として掲げていただろう。3期目にかけて、中山間で産業を作り、移住促進策も生かしてその担い手を招く、ことに力を入れてきた。仕事がなければ、若者の定着もかなわない。1次産業の振興、地域アクションプラン、集落活動センターの3層の取り組みを通じてそれを作ろうと努力してきた。結果として、中山間のGDP成長率を、長年のマイナス成長(▲15.4%(H13→H20))からプラス成長(+5.8%(H20→H28))に転じることもできた。
 だが、未だに若者の減少に歯止めをかけるには至っていない。今後大事なことは、産業を起こす取り組みを引き続き進めるとともに、住み続けられる環境整備を図ることだと思っている。
 都会での移住相談会において、中山間について一番懸念されるのは教育だ。子供の大学進学などを視野に入れて、その環境を気にする保護者は多いと聞く。
 高知の医療費が高い原因の一つに、中山間から早々に都市部に入院するケースが多いという事情がある。若者も高齢者も住み続けられる地域であるために、充実した医療、福祉の体制整備は不可欠だ。
 都市部と同等の教育、医療福祉の体制を中山間で実現することは、これまではコストの点からも不可能だと思われてきた。しかし、劇的に進化しているデジタル技術がそれを可能にしつつある。遠隔授業や遠隔診療の仕組みなどを通じて、中山間の暮らしを守る環境の整備を意図的に仕掛けていく必要があるだろう。
 こうした事情は高知のみではない。いつか、中山間の距離のハンディが解消される時がくれば、そして、むしろ情操豊かな中山間こそ教育や療養に素晴らしい、とされる世がくれば。中山間の若者が増え、国土の隅々まで、その持てる力を生かす国造りが可能となるはずだ。今後も努力を続けたいと思っている。

(産業振興計画各論編へ続く)