高知県知事時代

  • 産振計画⑦~さらなる飛躍願い~
  • 番外編

各論(農業編 上)

 知事在任中、もっとも強行軍だった出張は、農業関連の出張だった。2009年11月、世界の園芸王国オランダ、ウェストラント市への出張である。同市のファンデルタック市長と園芸農業に係る技術導入に関する協定の締結を行なうためであった。
 約12時間のフライトの後、早朝5時頃アムステルダム国際空港に到着。ウェストラント市で用務を済ませた後に、その夜には再びアムステルダムに戻り、成田行きの飛行機に乗った。前後の日程からごく短時間の滞在とならざるを得なかったのだが、どうしても私自ら訪問して協定を締結したかったのである。
 覚悟の短期間出張だったが、私は、ウェストラント市を去ることとなった際、この出張日程を心より後悔した。もっともっと滞在して多くを学びたいと思ったのだ。
 世界の園芸王国オランダの中でも最先端地であるウェストラント市。そこのハウス農家で展開されている農業の水準は目を見張るほどだった。ハウス内の環境を最適化して生育を促進する技術は極めて高度だったし、生産から加工、販売までサプライチェーンがかなりの程度出来上がっている、と感じた。農家というより企業という感じであった。そして、現地のレンティス農業専門校で意見交換した学生たちからは、将来に夢をもって農業を学んでいる様子がありありと伺えた。

《もっと、たくさん!》

 農業関連では国内でも強行軍の出張をこなすことが多かった。日本各地の卸売市場へのご挨拶である。日本の園芸王国を自負する本県の知事として、卸売市場へのお礼とトップセールは欠かせない用務だ。
 それぞれの市場に朝5時頃のセリの時間帯にお伺いして、トップセールスを行なった後、場内の業者さん達にお礼回りを行う。前日の夜に宴会などが入っていた場合には大変シビアだったが、非常に重要な仕事であった。
 その際、市場の役員の皆様から、しばしば指摘される事柄があった。高知の野菜は質も高くよく売れるが、もっと多く、かつ、安定した供給を望む、との指摘である。
 高知の食の美味しさには自信がある。新鮮な海の幸は抜群!しかし、県外客からよく言われたのは、魚は美味しいだろうと思っていたが、野菜も美味しい、ということだ。私事で恐縮だが、新婚の頃、栃木出身の妻も同じことを言っていた。
 ナス、ピーマン、シシトウ、ミョウガに生姜など、高知が全国トップクラスの生産量を誇る野菜は、高級でグラムあたり単価の高い野菜が多い。土地の狭さや物流上の不利に鑑みて選択された結果だ。そして、その美味しさは、観光振興を含めて、高知の武器だ。確かに質は抜群なのだ。その上で、量の拡大や安定に課題、との消費市場からの指摘にどう応えるか。この点が農業分野の産業振興計画にとって大きな課題となった。
 土地の狭い高知では、土地あたりの生産性を如何に向上させるかが、この課題に応えるための肝である。そして、そのために、オランダからより優れた技術の導入を図ろうと考えたのだ。
 職員から最初にこの提案を聞いたとき、何度も「本当に良いですね?進めて良いんですね?」と念押しされたことを覚えている。相当のビッグプロジェクトになるが故に、トップのコミットメントが必要ということであったのだろう。
 これ故に、たとえ0泊2日の超強行軍であろうとも、オランダまで私自ら出張する必要があったのだ。

《日本一の!》

 実際には、オランダの技術を高知でそのまま導入するわけにはいかなかった。オランダの冬は極めて寒いが、高知は比較的暖かい。こうした気候の差などを踏まえて、高知県の農業技術センターでは、オランダの技術を高知風にアレンジするための努力を数年かけて積み重ねた。職員の苦労は並大抵のものではなかったと思う。やり遂げたその力量と知恵の蓄積は、まさに高知の宝だ。
 その結果、平成26年の産業振興計画から、いよいよこの「環境統合制御技術」を農家に実際に普及し始めることとなった。ハウス内の空気の状況を見える化した上で、様々な装置によって、日射量とCO2濃度と温度と湿度のベストミックスを作り、光合成を促進して、生産性を劇的に向上させる技術である。高知には小規模農家も多い。このため、小規模ハウスにはCO2発生装置だけを、より大規模になればその他も、とハウスの規模に応じたスペックも作り出した。
 高知でも残念ながら、高齢化に伴い農業生産人口は減り続け、並行的に生産量も減少してきた。高知の農業は人とともに縮み続けた時期があったのだ。しかし、この環境統合制御技術を核とした「次世代型高知新施設園芸システム」の普及に応じて、近年、農業生産量は拡大傾向に転じている。
 売り上げを上げて、利益を出す。そのことを確実にしてこそ、若い人の就農は進む。オランダでは農業は企業的に「経営」されていた。高知でも若き農業者の皆さんと懇談した際、「自分の創意工夫が自分に跳ね返ってくる。失敗も成功もしかり。そこが面白い。」との話を良く聞いた。自らが社長として、自ら経営する農業。若い人を惹きつける魅力に溢れているはずだ。
 こうした若者をもっともっと増やすためにも、技術革新の後押しなど、行政が果たすべき役割は多い。

(各論 農業 下 へ続く)