高知県知事時代

  • 産振計画⑦~さらなる飛躍願い~
  • 番外編

各論(林業編 上)

 高知県が、全国的な連携を模索したものの中で、将来に向けて大きな手応えを感じたものの一つに、林業関連の連携がある。
 2016年4月、私は、東京の経済同友会の事務局を訪れた。内閣府の地方創生を担当する幹部から、経済界も地方創生に熱心に取り組み始めており、パートナーを探しいているはずだ、と伺ったからだ。
 事務局のご好意をいただき、しばらくして、経済同友会の地方創生小委員会で講演をさせて頂くこととなった。これはチャンス!とかなり意気込んで、4つのテーマ、すなわち、企業と地域の交流、IOT推進、人財・ビジネスマッチング、林業振興について高知県との提携を呼び掛けた。
 幸いにして同委員会のご理解も得られ、この4分野のプロジェクトについて提携させていただけることとなったが、実のところ、当初は、林業振興については、都会の人々の賛同を得られるか自信がなかった。所詮、田舎の話、と捉えられるのではと心配だったのだ。
 ところが、思いがけずもっとも共感を得たのはこの林業振興の分野だった。何と言っても、地方創生小委員長の東京海上ホールディングス会長(いずれも当時)の隅会長が、ご自身が林家のご出身ということもあり、深いご理解を示してくださったことが大きかった。更に、当時盛り上がり始めていたSDGs重視の流れも追い風となったようだ。
 17年6月には、高知県と経済同友会、土佐経済同友会の三者で連携協定を結び、林業振興を含め各プロジェクトが具体化していくこととなった。

《持てる資源を》

 林業振興は、中山間対策の特効薬だ。もともと中山間の山村には、林業を主たる産業として成立した山村が多い。森林面積割合84%、全国一を誇る本県にとっては、最も多く持てる資源を生かせる道でもある。
 古来より、林業が栄えた時代には、高知は栄えた。大阪には土佐堀という堀がある。大阪の街づくりに高知の木材が不可欠だった証左だ。土佐藩の殖産興業策として、林業振興策には重きが置かれた。
 高知では木材が年間約300万㎥成長するという。しかし、残念ながら、実際に伐採されているのは、産業振興計画がスタートした09年度当時は40万㎥程度でしかなかった。持てる資源を生かし切れていない状況だったのだ。
 本県の林業が抱える課題は、川上、川中、川下、それぞれに大変厳しいものがある。川上では、急峻な地形故の作業の困難さが、川中では、加工工程の課題が、川下では、木材に対する需要の低迷が指摘されていた。当初、最大のボトルネックと考えられたのは、後述するように、加工工程のボリュームが川上の潜在力に比して小さいことであった。ただ、全体として、木材需要をもっともっと拡大することなくして、より明るい展望が開ける見通しは立て難かったのだ。

《木造ビルを全国に》

 木材需要の拡大にとって極めて重要なのは、非住宅の木造化である。住宅の木造化比率は90.3%とそれなりの水準に達している。しかし、オフィスなどの非住宅となると、低層のものであっても、とたんに木造化比率は33.8%と低迷する。この木造化比率を高めることができれば、木材需要は劇的に拡大するはずである。
 更には、欧米発の新技術にも期待が持たれる。CLT(Cross Laminated Timber)である。木材を直交させて作るこの部材は、縦横両方向で強みを発揮する。欧米では、この技術を用いて中層以上のビルの建設も進んでいるのだそうだ。
 「思い切ったことをしないと道は開けない。是非、CLTの全国的な普及に取り組みたい」と当時の田村林業振興部長から聞いた時、これだ!と思ったものだ。ビルが木で建てられる時代がくれば、高知は資源大国だ!との希望に胸が膨らみもした。 
 ただ、全国的に広めるということとなれば、高知の力のみではパワー不足だ。このため、林業振興に大変熱心な岡山県真庭市の太田市長とともに、CLT首長連合を設立することとした。各地の首長に賛同者を募り、当初は10道県、4市町村でスタートし、太田市長と私が共同代表に就任した。多くの自治体の声をまとめて、その力で関連する規制緩和などを勝ち取ろうと考えたのだ。現在、同連合の加入団体は29都道府県、81市町村まで拡大している。
 更に、本県選出の国会議員のご尽力により、国会でもCLTの普及を目指す議員連盟も発足した。こうして、新たな技術の開発と普及への流れが政治、行政面で徐々に強まって行ったのである。
 だが、そもそも需要の喚起そのものをどうするかが、引き続き大きな課題であった。非住宅にせよ、中層のビルにせよ、木造とするかどうか決めるのは施主である。だからこそ、施主の皆さんが集う経済同友会などの経営者団体への働きかけを強化しようと考えたのだ。
 協定締結の後、18年3月には、経済同友会として木材需要振興の政策提言がなされ、隅会長と私とで関係大臣を訪問した。更には、施主や設計士の皆さんへの啓蒙普及活動にも着手した。
 現在、これらの活動は、木材利用推進全国会議の設立へとつながり、同友会と高知県のみならず、より全国的な活動へと広がっている。同会議には、ほぼ全ての都道府県と各地の経済同友会が加盟している。私はその設立を見届けた段階で知事を退任することとなったが、これから、全国の経済界の皆さんを巻き込んだ活動が展開されるはずだ。
 施主の皆さんのご理解を得て、全国に木造のビルが増えることとなれば、高知を含めた全国の林業振興の強力な牽引役となるだろう。今後の取り組みの更なる展開を切に望むところである。

(各論 林業 下 へ続く)