高知県知事時代

  • 産振計画⑦~さらなる飛躍願い~
  • 番外編

各論(水産業編 下)

 高知の刺身は本当に美味しい。多くの方から伺うことだが、私も鮮明な思い出がある。知事選挙で高知に帰ってきて、久々に四万十市に行ったときのこと。昼食時に皆んなで刺身定食を食べた。
 正直、朝から動き回ってかなりお腹も空いていたので、刺身定食では軽すぎるかなと思ったのが嬉しい間違い。東京のそれとは違って、脂ものって満足度最高の美味しさだったことを昨日のことの様に覚えている。
選挙を前に公約を必死で考えていた最中のこと。やはり大したもんだな、こうした強みがあるんだな、としみじみと感じ入ったことだった。

《苦労と喜びと》

 こうした良さをどうやって、県外に伝えていくか。産業振興計画による第3の施策群は、この外商促進の取り組みである。
 どちらかというと、産業振興計画の策定までは、如何に適正かつ効率的に漁を行うかに水産行政の重点は置かれていた。従って、水産業の外商推進施策の検討には正直苦労した。一部には、これは県庁の仕事ではない、との雰囲気もあったくらいだ。
 すったもんだの検討を経て、産振計画策定当初は、まずは、都会の市場関係者を産地市場に招待することから始めた。釣り方、締め方など産地の工夫を知ってもらい、その質の高さをアピールしようとしたのだ。消費者に近い市場との交流を通じて、浜の意識改革を狙ったものでもあった。
 更に、2013年になって、職員から素晴らしいアイディアが出た。「高知家の魚応援の店」制度である。
 高知は釣り漁が多いことなどから、釣れる魚の質は高く、品種も多様だが、量は少ない。この少量多品種、高付加価値にふさわしい売り方として、都会の高級店舗等と産地との間で協定を結び、直取引することを狙ったものだと言う。今日はこんな魚がとれた、との浜の情報を送って店舗と直に取引する。少々割高になろうと質の高い魚を求める高級店をターゲットにしていた。
 県庁の会議室で当時の東水産部長は、このアィディアを私に説明した後、「目標数は500店舗!」と思い切ったように言い、そして、私をじっと見た。どうせ私が沢山やろうと無理を言うだろうから、自分達から予め500という高い目標を提示してやろう、でもそれでも少ない、と私が言い出すのではないか、と警戒しているような、そんな様子でもあった。
 しかし、私は、内心、驚き、かつ、ものすごく喜んでいた。こんな良いプランを、しかも、こんな高い目標を掲げてやっていこうと自主的に言ってくれたのだ。職員のその意識の高さが嬉しかったし、そして、最初の頃外商施策を考え出すのに一苦労したことを思い出し、隔世の感がある、と大袈裟ではなく感激したのだ。
 現在、登録店舗数は1000店を超える。産地から毎日届く入荷情報と品質の高さが受けて、数々の親方、シェフのお眼鏡にかなっているようだ。
 2019年の売り上げ総額は約4.2億円。更に、今後は野菜などとの抱き合わせ販売も見込まれる。コロナ禍による苦戦もあろう。だが、高知の特性に合わせた流通として、今後の期待が大いに高まるところだ。

《3次産業を》

 施策群の第四は、水産業と観光業とのコラボレーションである。
 現在、県は観光分野で「自然体験キャンペーン」を展開している。本県では、海洋レジャーの分野も非常に有力な分野だ。釣筏から外洋クルーズまで、美しく豪快な海を生かして様々な展開が考えれよう。私は、同キャンペーンの半ばで退任したし、現在はコロナ禍で苦労している最中だ。
 しかし、私は、この分野に大いに期待をしている。漁村にサービス業を展開する大きなきっかけとなるからだ。海洋レジャーと合わせて飲食、宿泊と展開が進めば、漁業、加工と並んで、一次、二次、三次産業が漁村に揃うこととなる。
 多様な仕事があってこそ、若者は地元に残ることができる。漁村という宝を生かす新たな取り組みがコロナ禍開けに本格展開することとなるよう、切に望むところである。

《厳しさの中にも》

 私は本県の水産分野の将来に大変な期待を抱いている。直近の状況は非常に厳しい。高齢化は進み、コロナ禍がこれに追い討ちをかける。若者の減少、所得の減少、多くの課題に直面する漁村は多い。これは全国的な課題だろうが、特に本県ではその厳しさはひとしおだろう。
 だが、開き直る訳ではないが、その分、伸び代は大きいと考えている。鍵は、これまで述べた二つである。世界への展開とクラスター化だ。
 和食が世界遺産になる時代である。生魚や寿司は更に世界に普及していくはずだ。日本の漁法による、日本の魚でなければ出せない味がある。そして高知ならではの味があることを否定する人はおるまい。
 また、漁村には、漁業、水産加工、輸出産業、観光業の集積を図る余地がある。水産加工業を着実に育成することと併せて、海洋レジャーと漁業との良き連携を図ることができれば、多様な職が漁村に生まれることとなる。
 コールドチェーンをどう確保するのか、海外の販路をどうやって開いてくのか、海洋レジャーを展開するにしても、核となる観光商品をどう作るのか、高知では検討すべき課題は多い。
 だが、例えば、地元の海とタイアップした土佐清水の新しい水族館SATOUMIが人気を博している様に、確実に、海に対する観光需要はある。観光PRに訪れた外国でも、高知流のカツオのたたきはやはり好評だった。高知でも可能性は確実に開けてきていると思っている。
 長い海岸線を持つ高知県。その美しい、私たちの持てる資源を生かしきれるか。水産業の振興はそういう意味を持つ、大きな課題だ。

(各論 商工業 へ続く)