高知県知事時代

  • 産振計画⑦~さらなる飛躍願い~
  • 番外編

各論(商工業編 中)

 高知は災害が多い。これまで数々の困難をくぐり抜けてきた分、県民の災害に対するノウハウは豊富だ。
 現在も、南海トラフ地震対策や豪雨災害対策など、発災直後から応急期、復旧期までをも視野に入れた様々な対策が官民協働で講じられている。
 そのノウハウは、高知のみならず、全国、いや、世界的にも有益であるはずだ。防災関連産業振興の取り組みは、このノウハウを新たな産業創出に繋げようという、いわば災害が多いという弱みを強みに転じようというものだ。

《車の両輪として》

 更にその他の狙いもある。そもそも、防災対策は重い負担として捉えられがちだ。東日本大震災の後、南海トラフ地震対策を抜本強化する必要が明らかになるにつれ、重い重い荷を背負ったという気分が県内にも蔓延した。防災関連産業振興との方針は、そうした中で、何とか明るい展望も示したい、との願いを込めたものでもある。防災を新たな産業創出に繋げるという展望だ。
 また、防災力強化と産業創出が、車の両輪として相乗効果を生み出すことを狙ったものでもあった。防災対応力が増す中で、そのノウハウが防災関連の製品やサービス開発につながり、それが防災対応力を更に向上させる、といった好循環を生み出すことを意図したのだ。
 防災関連産業の育成にはこのように多くの願いが込められていた。無から有を生み出すような挑戦だったが、是非とも成功させたい施策であったのだ。
 まずは防災関連事業者の集まるプラットフォームを作り、専門家による講演から具体的な商品開発のアドバイス、基準をクリアした製品の県による認定など、一連の製品開発の支援策を講じた。併せて「外商センター」による販路開拓支援を行ない、そのターゲットを、他県の自治体等も含め全国に広げていった。
 先述のとおり、ものづくりの地産外商分野は全体としてその規模を広げていったが、その中でも防災関連産業はゼロから始まって大きく規模を拡大していった分野である。その外商成果は、初年度はわずか6千万円。しかし、2019年度には、61.3億円まで拡大した。
 毎年、横浜や大阪では防災関連技術展が開催される。同展では、毎年、入り口付近の比較的目立つコーナーに高知県の専用ブースを設けて頂き、10社以上の県内企業が売り込みを行っている。自治体による取り組みは珍しいと、主催者がご配慮くださったものだ。
 同展では、毎年、私もオープニング式典に参加し、本県の防災対策についての講演も行った。本県など災害常習県の取り組みに対する関心は、東日本大震災以降大変高まっている。私の拙い講演にも、毎年会場一杯の聴衆が来て下さったし、その後本県ブースに立ち寄っていただいた方も多い。
 防災対策には膨大なコストがかかる。防災関連産業育成の取り組みは、それを、なんとか、経済活性化というプラスの側面にもつなげていこうという取り組みだ。今後、外国への輸出も有望だろう。更なる展開を切に望んでいる。
 防災が典型であるように、負担やコストと捉えられがちな分野は、往々にして皆が取り組まなければならない分野でもある。故に、弱みを強みに転じるチャンスは他の分野でも必ずあるはずだ。身近な所では、地球温暖化対策の必要の高まりに合わせて、グリーン産業の育成を図ることが典型だろう。中山間の厳しさは、新たな産業創出の母かも知れない。「持てる強みを生かす」のみならず、「弱みをも強みに転じる」。この姿勢が今後も大事だと思っている。

《強面の皆様にも》

 ものづくり分野の支援策の第3の柱は、各社の事業戦略作りのお手伝いだ。
 言うまでもないが、良き事業展開の第一歩は、良き作戦を練ることだ。そして、作戦は状況に応じて柔軟に見直されなくてはならない。この事業戦略作りをサポートすることを、県として試みたのだ。
 もちろん、事業経営の経験のない県庁職員が事業戦略作りをお手伝いできるわけもない。ものづくり地産地消・外商センターに民間から戦略作りの専門家を多数お雇いした。更にセンターでは、戦略策定後にそのPDCAサイクルを回すお手伝いも行った。
 当初、この事業を立ち上げようとしたとき、「大きなお世話だ」という反応が多々返ってくるのではないか、と心配した。事業の中核に関わる、いわばツボを狙ったものではあったが、他方で、外部からは触れがたい領域にも思えたのだ。
 だが、結果として、最も好評だったのはこの施策だったように思う。高知県工業会の重鎮の皆様は、良い意味で「強面」の方が多い。私も含め県職員もあまり褒められることがなかったのだが、この施策は褒めてもらった。是非、継続的に息長く展開すべき事業だと評価してくださったのだ。
 県では週一回いわゆる幹部会を開催する。知事、副知事、部長格の職員からなる庁議である。毎回、簡単に各部から業務の進捗と今週の課題について報告があるのだが、ものづくり地産地消・外商センターを管轄する松岡産業振興センター理事長からは、毎週、毎週、事業戦略作りに着手した企業が何件で、完成した企業が何件、という報告がなされた。それだけ重視した施策だったということだ。   
 毎週、毎週その数は増え、現在は、概ね200社超が策定を終えた。PDCAサイクルを回す3年間の伴走支援を終えた事業者も49社に至る。
 良き作戦によって良き事業展開がなされる、そうしたケースが更に増えていくこととなるよう、今後も末長く取り組むべき施策だろう。

(各論 商工業編 下 へ続く)