高知県知事時代

  • 産振計画⑦~さらなる飛躍願い~
  • 番外編

各論(商工業編 下)

 商工業分野では、商店街の振興も大きなテーマであった。高齢者や環境に優しいコンパクトシティ化の要請に応えるためにも、中心商店街の活性化は重要だ。また、その土地の顔である中心商店街には、観光面での期待も大きく、そのためにも活性化は重要なテーマだ。
 県としての作戦は二つあった。第一は、人の集まる公共施設をできるだけ中心街に呼び戻し、それによって人の流れを作り、民間投資も呼び込もうとする取り組みだ。
 高知市では、県立大の永国寺キャンパスを拡張するとともに、新たに高知城歴史博物館、オーテピア(県市図書館等複合施設)を市内中心部に設置した。それぞれの施設の役割、機能に照らしてその必要があったからであるが、併せて、街の賑わいを作り出す役割を期待してのことでもあった。
 第二は、商店街ごとに外部に訴求する特色を持たせる取り組みだ。コンビニの普及などによって流通、小売のあり方が変わる中、住人の日常生活を支える場という役割に加えて、域外から外貨を稼ぐ商店街という役割の一層の強化を目論んだのだ。高知市中心商店街であれば、高知の顔としての売りが、その他も、魚の町、和紙の町などなど、それぞれの展開が考えられよう。
 3施設の完成とともに、民間の商業施設ができたこともあり、高知市の中心商店街の通行量は長年の低下傾向から増加傾向に転じた。だが県全域を見渡すと取り組みはまだまだ発展途上だ。外貨を稼ぎ出す商店街としての展望が開けることとなるよう、今後の取り組みが期待されるところだ。

《そして時代の流れを》

 先述の通り、高知は、戦後の重化学工業隆盛の時代には、時代の流れに十分に乗りきることができなかった。だが、だからこそ、これからは新たな時代の流れを是非とも掴み取って行かなくてはならない。
 こうした思いでスタートした事業が、いわゆるデジタル分野の産業育成だ。
当初は、いわゆるガラケー向けゲーム開発への支援策からスタートしたのだが、スマホの普及をはじめとしたデジタル化の本格的な展開を受けて、3期目から施策を本格化した。
 この分野では地理的なハンディはないが、他方で、優れた人材の集積する地となり得るか否かが優劣を決める。このため、産業振興計画の中では例外的に徹底した企業立地に動き、かつ、人材誘致に努めた。人材集団たる企業の誘致、というイメージであった。事務所費負担の軽減などの支援策も全国トップクラスのものとし、東京でもたびたびセミナーを開催して誘致活動を行なった。
 併せて、人が人を呼ぶ業界であることを踏まえて、本県出身で同業界で成功された武市智行さんにアドバイザーに就任して頂き、誘致対象を様々に紹介していただいた。紹介していただいた企業の中には、その誘致が核となってお知り合いの企業の誘致に次々とつながるような企業もあった。
 ただ、もう一つ工夫が必要だった。それは、人材の確保である。高知はユニークで優秀な人材の多い地である。しかし、デジタル関連の人材育成の場は、大都市に比べて希少であった。
 当時、都会ではデジタル人材が不足し始めており、地方の人材に目が向くトレンドにはあったものの、新たな人材育成の場がなければ、早々に人材不足の壁に打ち当たってしまう。この壁を乗り越えようと2018年4月に設立したのが、高知県ITコンテンツアカデミーである。
 プログラミングの基本から、デジタル事業の展開まで、各種の講座を取り揃えた。初年度は11講座だったが、ニーズに応じて拡大し直近では20講座を超えている。ゲームデザインの講座など、進出企業のニーズに応じてカスタマイズした講座を設けたりもした。こうした人材確保、育成のサポート体制があることを誘致に当たっての売りにしようとしたのだ。
 この分野の企業立地は比較的うまく行った。私の在任中には22社立地し、200人程度の雇用を生み出すに至っている。
 その上で、先述のとおり、課題解決型産業創出事業や、Next次世代型農業プロジェクトなどを通じて、一種のプラットフォームを作って、「地場産業×デジタル=地場産業の高度化」を目指す取り組みを進めてきた。誘致企業の集積があったればこそ、その展望も開けてきたと言えるだろう。

《牽引役として》

 これから、あらゆる産業はデジタルと関わることになるだろう。重化学工業を中心に産業振興をしていた時代に、コンビナートが不可欠であったように、デジタルの時代に、デジタル人材の集積は不可欠だ。
 コロナ禍によってリモートワークも進む中で、リモートによって人材を呼び集める工夫も今後求められるであろう。「ITコンテンツアカデミー」も濵田県政の下で「高知デジタルカレッジ」として抜本強化された。高知工科大学において、デジタル系の新たな学群を作ろうという動きもある。是非とも早急に実現すべき構想だろう。
 国のデジタル庁設立の動きと同様に、地方でも行政がデジタル化を率先垂範する必要もあろう。任期の最終盤、19年6月には、高知県行政サービスデジタル化推進会議を立ち上げ、具体的な施策の検討に取り掛かった。その目的は、決して、行政の効率性、利便性向上に止まるものではない。高知のデジタル化を牽引し、ひいては、様々な新事業を生み出す一助となることも意図したものだ。
 先述のとおり、デジタル技術を活用した課題解決型産業創出事業などのプラットフォームも展開されている。人材育成事業とも相まって、高知が、優れた人材が集まり、新たな事業が次々と生み出される場となれば、との期待は大きい。
 官と民、双方に関わるデジタル化推進の仕掛けがなされてきた。戦後の轍を踏まず、新たな時代の流れの先端を高知が行くことができるように、これらの取り組みが成功裏に展開していくことを心から望んでいる。
まだまだ始まったばかりなのだ。