高知県知事時代

  • 第十五回
  • 長寿県構想②
  • 2020年4月3日掲載

知事会で汗をかく


「少子化PT長として松山少子化担当大臣に提言」

 長寿県構想を通じて多くの県民のみなさまの善意に触れることができた。
 地域のあったかふれあいセンターでは、社会福祉協議会の職員さんたちのやさしい笑顔に、助け合いの原点を見る思いがした。
 子供食堂は既に県内で76カ所にも至っているそうだ。まさに、「高知家」ならではの温かさである。
 ヘルスメイトの皆さんにも食育などを含め大変お世話になった。
 また、民生委員、児童委員の皆さまにも、高齢者の見守り、児童虐待防止などに、ひとかたならぬご尽力を賜った。心から感謝申し上げたい。
 民生委員、児童委員大会で毎年度、わざわざ枠をいただいて長寿県構想の講演を行ったことも良き思い出だ。
 最初の頃は、来賓祝辞で簡単に紹介を、と言われていたのだが、熱が入って説明が毎年長くなっていった。それなら、と1時間もの枠を下さったのだ。
 多くの善意に支えられて地域の福祉は成り立つ。いかにして制度的にこれを支えるか。全国知事会でも大きなテーマとなった。

《少子化対策》

 全国知事会では、社会保障分野の仕事が長かった。2011年4月からは、次世代育成支援対策特別委員長として、子育て、少子化対策担当となった。
 当時、少子化対策について、政府の危機感は薄いと感じられた。少子化担当大臣に「典型的な『ゆでガエル』事案だ」「『国家の危機』くらいの勢いでやってほしい」と強く迫ったものだ。
 若手の知事で「次世代知事同盟」を立ち上げてPRイベントを行ったり、全国知事会でも当時の山田啓二会長の提唱で「少子化危機突破宣言」を出したりもした。
 今や少子化対策は国の中心的な施策となっている。長年訴えてきた幼児教育無償化も実現した。知事会での活動にささやかな手応えを感じてもいる。

《地域の実情こそ》

 苦労したのは、地域の実情に応じた政策展開を、社会保障分野で可能とする制度作りである。
 医療、福祉は地域の実情に沿って展開されるべきだ、と長寿県構想を通じて実感してきた。少子化対策もしかり。出会いの場が少ない中山間での対策と、子育ての経済的負担が大きい都市部では、対策の重点が異なる。
 このため「自治体の裁量を認める支援制度の創設を」と知事会で運動を展開し、政府の少子化対策交付金の創設につながった。
 18年4月からは、全国知事会の社会保障常任委員長として、特に、医療の問題に携わった。
 高知の県民1人当たり医療費は日本一、二の高さだとよく批判されたが、山深い中山間の医療・福祉サービスが薄い故に、都市部での入院につながりやすい、という構造的な事情がある。
 糖尿病重症化予防や重複投薬是正など、都会と同様に強化すべき施策もあるが、高知の場合、中山間の医療・福祉を後押しする施策こそが、医療費も引き下げ、県民の幸せにもつながる。
 各都道府県で、それぞれの実情に応じた工夫が行われているはずだ、との考えの下、18年7月の全国知事会の「健康立国宣言」に基づき、社会保障常任委員会の下に21のワーキングチームを立ち上げ、各県の優良事例をお互いに学びあうプロジェクトを始めた。県庁職員も全国を相手に大変だったろうが、獅子奮迅の働きを見せてくれた。
 この結果、他県の好事例に倣おうと、半年ほどの間に369もの取組が全国の都道府県で始まることとなった。
 そして、この結果を関係省庁にも示し、地方独自の工夫を後押しする制度創設を働きかけたのだ。
 地域の実情に沿ってこそ、うまくいく政策分野は多い。地方分権の必要性はまずはここにある。