- 第十四回
- 長寿県構想①
- 2020年4月2日掲載
子育ての苦労痛感
「子供の日に兜とレイを送られて」
産業振興計画の立案に注力した翌年度の2009年度には「日本一の健康長寿県構想」の策定に着手した。
この分野では、法律で義務付けられた計画も多い。既存の各施策を関連づけ、その上で県独自の施策を加えていった。産振計画同様、四半期ごとに私を本部長とする本部会議を開催。PDCAサイクルを徹底して毎年度改定を重ねた。
《5つの柱》
構想では、本県の課題となる5分野に沿って柱を定めた。
①全国に比して高い壮年期の死亡率の改善②地域地域で住み続けられる県づくり、すなわち、高知版地域包括ケアシステムの構築③厳しい環境にある子供達の支援④少子化対策⑤関連分野の人材確保ーである。
飲酒量が多いことも背景にあるのだろう。残念ながら、本県は健康長寿県とは言えない。全国平均よりかなり低い特定健診、がん検診の受診率向上や健康づくり運動普及に努めた。
本県は、人口密度が最も低い県の一つで、さまざまなサービスもコスト高になりがちだ。このため、訪問介護、訪問看護などに独自の支援措置を講じた。
また、改善が見られるが、道路事情も良くはない。ドクターヘリの運航を重視したのもこのためだ。
総合診療専門医の養成に力を入れて、中山間の医療の改善を図るとともに、高齢者、障害者、子供たちの見守りなどを1ヵ所でこなす「あったかふれあいセンター」を、県独自の制度として全域に広めた。
法律により全国一律、となりがちな分野ではあるが、本県の中山間の実情にあった独自の工夫を重ねたのである。
《衝撃の受診率》
中山間対策と並んで、子育て関連の施策でも独自の対応を迫られた。
ある日の本部会議で、私は脳をガツンとやられるような衝撃を覚えた。
本県の1歳半、3歳児健診の受診率が、長年全国最下位だと聞かされたのだ。全国平均から10%近く低く、それぞれ85%、80%ほどでしかなかった。
子育ての節目となる大事な健診を受けない家庭がこれだけいる。経済面も含め、高知の子育て世代がいかに苦労しているか端的に物語るものだと思った。
なぜもっとはやく気付かなかったかと、心から悔いた。県民の暮らしについての理解の浅さを恥じもした。
もともと子供を守る対策の強化には意を用いてきたつもりだった。就任直後に起きた児童の虐待死事件には、身が引き裂けそうなつらい思いをした。
その際は深く反省をし、児童相談所の体制や関係機関の間での連携を強化し、一時保護など必要な措置を適切に講じられる意思決定のプロセス作りなどにも取り組んだ。
ただ、この健診の数値は、より暮らしに根差した広範な対策の必要性を物語っていた。
このため、子供が幼い頃は保護者のケアを中心に対策を施し、長ずるに従い子ども自身への対策を強化することとした。
例えば、健診の受診勧奨強化とともに、健診で把握したリスクのある家庭を速やかに福祉部門でケアできるよう、母子保健と児童福祉の連携を徹底した。
放課後の学習支援など、貧困の世代間連鎖を教育で断ち切る取り組みとも連携を図った。食育、健康教育についても力を入れた。
職員、関係者のご努力により、現在この健診の受診率は全国平均を上回るまで改善している。
それを見届けられたことは知事として幸せであった。ただ、もっと早く気付いていれば、との後悔はいまだに残る。