- 第十七回
- 教育改革②
- 2020年4月5日掲載
子供のため学力を
「高知大学教職員大学院にて熱弁」
なぜ、知徳体全てがこのように大変な状況になってしまったのか。
この点を学ぼうと知事就任後に始めた勉強会では、県教委の先生方から誠に多くを教わった。同じく危機感を抱く先生も多くいたのだろう。率直かつ詳細な説明を受けた。
《ある数式》
その一環として、全国学力テストの結果を設問ごとにつぶさに検討させてもらったが、中学3年生のテストで特に心に刺さった問題があった。
「2X+3Y=9。これをYについて解きなさい」という問題だ。
この問題は代数の基本中の基本だ。しかし、正答率はわずか4割にすぎなかった。「8ー5×(ー6)=」という、より初歩的な問題でさえ6割5分にとどまっていた。
このテストは3年生の4月に行われる。これらが解けないということは、中学の2年間、数学の授業がほとんど理解できなかったことを意味する。
基礎学力は夢に向かって羽ばたく力の礎だ。それを礎として新たな疑問が生まれ、そこから新たな知識が得られ、そしてさらに疑問が…と知的世界は広がっていく。しかし、高知では多くの子どもが入り口でつまずいてしまっていた。
そのつらさはいかばかりか。これらの意味するところは、単に「テストができない」ではない。授業が理解できず、子どもたちが「つらい思いをしている」ことを意味している。将来に向けて自信を失いかけた子どもも多くいるのでは、と危惧した。
子どもたちのために、この状況を必ず脱しなくてはならない。私はこの数式を何度も何度も示しながら、各所で学力向上の必要性を説いて回った。
《スピード感を》
当初、「学力向上には時間がかかる」とする教育関係者も多かった。
「教員の質の向上が大事だが、それには時間がかかる」「そもそも、小学校、幼児教育段階から改善する必要がある」といった意見を多くうかがった。
私もその通りなのだろうと思った。ただ、子供たちは毎年毎年、中学を卒業していく。時間がかかるから当面の卒業生には我慢してもらおう、とはならない。スピード感をもってできることから改善を図っていく必要があった。こうして、中沢卓史教育長を先頭に、県教委の挑戦が始まったのである。
2008年6月、まずは緊急に対応すべき事柄をまとめた「学力向上・いじめ問題等対策計画」が発表された。
この計画では学力に関し、まず、単元テスト実施や、授業や宿題用の教材開発などの措置を講じた。
単元ごとに個々の学力の定着状況をきめ細かく把握し、宿題や補習等に反映させることは基本中の基本だ。
教員の研修充実などの本格的な対策も講じつつ、併せて、優れた教材を開発して、即効性のある形で授業改善を行おうと試みた。
また、知徳体全てが厳しいということは、その背後に共通の要因があるはずである。高知の場合は、経済面も含め厳しい環境にある子どもが多いことがそれだ、との考えの下、学校での放課後学習の充実を図った。家庭環境によらず、学習の機会を保障しようと試みたのだ。
各校に学校経営計画策定を求め、校長のリーダシップによる改善を促そうともした。
体育の授業改善などにより、年を追うごとに、体力テストの結果は速やかに改善していった。だが、残念ながら、学力の改善ペースは緩やかなものにとどまった。
やはり、緊急対策を超えた「時間のかかる課題」にも、より本格的に取り組む必要があったのである。